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これまで物語(絵本)を制作してきた鈴村温(すずむら・のどか)さん。「一人ひとりの日常が過ぎていく中に物語がある」と彼女は言う。「…

 鈴村温さんは、たんぽぽの家アートセンターHANAで働いて5年目になる。現在は、アトリエ担当のスタッフとして、たんぽぽの家の利用者(以下、メンバー)が作品を制作する際のサポート、展覧会や作品販売の準備、また、外部団体との連携などを行う。そして、自身も学生時代から絵本の制作をしている。そんな鈴村さんにとっての「ケア×物語」について聞いた。

・「結果」ではなく、「プロセス」にこだわりたい。
鈴村さんは、たんぽぽの家で働くまで、アートはできた作品(結果)が重要だと考えていた。しかし、たんぽぽの家での日々の出来事が、彼女の感覚を変えた。作品づくりの中でメンバーとスタッフの会話や関係性、面白い出来事がメンバーにもスタッフにも大きな影響を与える。その中にこそ、アートの魅力があると感じるようになった。ゆえに作品制作時のメンバーとの関わり方は、とても大切にしている。作品をみる人にとっては、完成したものが全てである。しかし見せ方を工夫すれば、ささいなものでも胸を張って紹介できるのが、アートの良い所だと感じているという。人と人の関係性、その人が生活の中で何気なくやっている趣味のようなことなど、形は問わず魅力を伝えられるのだ。そんな魅力は日々のメンバーと過ごすプロセスの中にこそごろごろとある。最近たんぽぽの家では、スタッフが独自の目線で発見したメンバーのひととなりを伝える、そんな挑戦的な展示を行なっている。社会でも、日々暮らす過程にこそある人の魅力を伝える取り組みが増えてほしい。

・創作サポートのポイントは、「個性を活かすこと」
個性的なメンバーが多く集まるアトリエで、鈴村さんが最も気をつけていることは、その人の作品から個性を奪わないことである。もちろんメンバーには、アドバイスを与えるが、それが一つの選択肢ではなく、本人が選べるよう、多くの選択肢を提案する。本人が思ったような作品を作れるようサポートするのが最大の務めである。以前は、難しさもあった。自分ではこうしたほうが良いと思うことも、メンバーは全く違うことを考えており、ギャップを感じることが時にあった。しかし、最近ではそれさえも楽しいと思うようになって来た。メンバーの様々な発想に対して、「そう来たか!」と思えるような余裕がでて来た。その人がつくった単体の作品が評価されなくても、積み重ねられた行為や、個性を感じるセンス、その人の日々の生き方そのものが評価されることもある。それによって、多くの人々に影響を与えることがあるそうだ。彼らによって、彼女の表現の幅も広がっている。

・鈴村さんの挑戦
鈴村さんは、今後2つの事を実現できればと語る。一つめは、障害のある人自身がもっと自由に外に出られる環境を整えることである。障害のある人の作品を外に出すことは、これまでの取り組みによって、機会を得ることが増した。しかし、障害のある人自身が街に出て、何かを伝えたり、何か影響を与えたりする機会はまだまだ少ない。彼女自身、メンバーとの出会いを通じて、小さな出来事に幸せや喜びを感じたり、自分との共通点を発見したりするようになった。彼らのおかげで自分の気持ちが解放されることもあった。そんな出会いを施設のスタッフだけでなく、地域住民をはじめ、多くの人に経験して欲しい。そのような機会が自然に与えられる社会ができるようこれから考え続けていきたい。
二つめは、自身の作品制作である。たんぽぽの家で働いて、印象に残る出来事や楽しかった出来事が多くあった。それらの出来事を絵本やそのほかの形で表現したい。メンバーが1日4時間制作する様子を見ていると、自分ももっと描きたいという衝動に駆られる。今は一度立ち止まって、多くの経験を元にこの世界の魅力を物語として伝えることができればと夢見ているそうだ。

・これからケアに関わる人へのメッセージ、「無理せず、頑張りすぎない」
彼女がケアに関わり続けて5年、これからケアに関わる人たちに伝えたいことは、「無理せず、頑張りすぎない」ということ。ケアと自分の生活は、リンクしていて、切っても切り離せない関係である。自分がいい状態であれば、相手のささいなところにある、新しい一面の発見につながり、それが自分のモチベーションとなる。自分を大切にし、ケアと自分の生活を繋げてほしい。また、スタッフだから立場が上ということはない。メンバーからもたくさんのことを学び、お互いに良い影響を与えてあって欲しい。そうすることで、自分自身の成長にも繋がると締めくくった。

[執筆者]
松田寛史

[執筆者の情報]
同志社大学社会学部社会福祉学科4年生。国際福祉ゼミに所属。児童労働や人身売買に関心を持つ。「元ストリートチルドレンへのケアの実際と可能性—フィリピンの児童養護施設カンルンガンを追ってー」を卒業論文として執筆。