ケアでひろがる、ケアでつながる 支えあいの情報モール HELP ON HELP

学ぶための本、癒される本、楽しめる本…。 ケアに関するおすすめの本や、ケアと関係なさそうだけれど、ケアする人におすすめの本をご紹介…

 食べることがままならないことは生きることがままならないことなのだ、と実感していた20代、私が出会ったのが佐藤初女さんだった。

 何かの雑誌の記事で、心を病んだ人や苦しみを抱えた人を受け入れる憩いと安らぎの家「森のイスキア」を30年以上されているという佐藤さんの活動を知り、すぐに書店で彼女の著書を買い求めた。

 『おむすびの祈り 「森のイスキア」こころの歳時記』(集英社文庫)には佐藤さんのこれまでの人生、そして祈りにも似た言葉が綴られている。
 「生活すべてが祈りですー私たちは食べることを通して、自然からいのちをいただき、それを私たちのいのちへとつないでいきます」、そんな佐藤さんのこころが伝わったご飯を食べることで、イスキアの家を訪れる人たちは再び生きることと向き合えるのだろう。

 神戸での講演会で佐藤さんが「お野菜は私たちが食べ易い柔らかさに茹であがってくれるのです。だから茹でているお鍋から目を離せないんですよ。ちょうどいい頃合いにお鍋から出してあげなくてはいけませんからね」と柔らかな口調で言われ、当たり前の日常に鮮やかな色合いがぱっと広がるような印象的な言葉だった。

 お米を研ぐ時もお米の一粒一粒を大切に、粒が割れないように。食べ物に対する態度はそのままその人の生きる姿勢でもあるのだろう。

 ヒラキヒミ、これはイヌイットの言葉で「自然の声に耳を傾けよ」という意味だという。
ただ料理をするのではなく、いただく自然のいのちと会話しながら切ったり茹でたり合えたりすること。

 そして食べることがちゃんとしていれば身体も整ってくるのだろう。自然に聴く、そのいのちをいただいている自分の身体に聴く、
そうすれば私たちはもっと素直に生きていけるのかもしれない。

【執筆者】
上田薫

【よみ】
うえだかおる