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多くの子どもたちが楽しみにする12月25日は、年末業務に追われる大人にとっても、少しウキウキした気分になる1日ではないか。それは、…

「歌があなたを笑顔にする」
歌:酒井 靖 ピアノ:宮脇 聡子
報告:松田 寛史

多くの子どもたちが楽しみにする12月25日は、年末業務に追われる大人にとっても、少しウキウキした気分になる1日ではないか。それは、施設で過ごす高齢者にとっても同じである。奈良市にある介護老人施設「大和田の里」では、やすらぎコンサートがクリスマスの日に行われた。たんぽぽの家のスタッフである酒井靖さん(歌)と宮脇聡子さん(ピアノ)によって開催された。酒井さんの美声と軽快なトーク、宮脇さんの奏でる美しいピアノの音色は、多くの利用者、職員を魅了した。
「雪」でコンサートが始まった。「雪やこんこ あられやこんこ・・・」で始まるこの歌は、冬至を超え、厳しい寒さがやってきた今日にぴったりの曲だった。この曲が終わると、酒井さんは、「声がよく出る体操」を利用者と行った。酒井さんはみんなで声を重ね、心を重ねて歌えば、素敵なひとときが作り出せると利用者の皆さんに提案した。体操の後は徐々に会場の声も大きくなった。
「たき火」、「お正月」、「春よ来い」と曲は続き、昭和の歌謡曲へと移って言った。昭和の歌謡曲の中でも特に人気の三曲、「川の流れのように」、「リンゴの唄」、「青い山脈」と続いた。特に、「川の流れのように」は、多くの利用者が口ずさみ、彼らの心を打ったようだ。「知らず知らず 歩いていた 細く長い この道・・・」という歌詞と会場の皆さんが歌う姿が印象的だった。様々な困難や苦労を乗り越えてきた彼らの長い人生を歌っているようで、筆者にとっても心が温まる瞬間だった。その後に続いた、「上を向いて歩こう」や「幸せなら手をたたこう」の名曲も温かい空間を作り上げていた。
酒井さんと宮脇さんは、利用者や職員と共につくるコンサートを意識していた。コンサートの途中で行われるクイズや昭和を生きたスターの話、冬に関する豆知識は、会場の皆さんを引きつけていた。それらによって彼らも心を許し、コンサートへのめり込んでいた。
コンサートの終盤では、クリスマス当日ということもあり、クリスマスメドレーが会場を盛り上げた。「サンタが町にやってくる」に始まり、「ジングルベル」、「あわてんぼうのサンタクロース」、「赤鼻のトナカイ」、「きよしこの夜」と続いた。筆者も鈴の演奏で飛び入り参加したが、鈴やタンバリンの音色に合わせて、元気な歌声と素敵な笑顔が会場を包んだ。
そして、最後の一曲が「故郷」である。酒井さんはコンサートをする度に、長野の故郷や今は亡き父や母のことを思い出すという。昨今、家族や友人・知人同士による殺人など、悲しい出来事がたびたび起こる。酒井さんは「今こそ、人を愛すること、人を想うこと、とりわけ、自分のパートナー、家族、故郷を大事にすることが大切ではないか」と会場の人々に訴えた。「いかにいます 父母 つつがなしや 友がき 雨に風に つけても 思いいずる 故郷」という歌詞が心に染みた。全ての曲が終わると感動と笑顔に会場は包まれた。中には酒井さんや宮脇さんに対して、「込み上げてくるものがありました、またお待ちしております」とお礼を言いにくる利用者の姿もあった。
コンサートを通じて、ケアに通じる二つのキーワードをみつけた。一つめは「心をつかむこと」である。先述の通り、どのような歌やトークをすれば、利用者の方々に喜んでいただけるかが綿密に考えられていた。本番でも多くの利用者が声を出して歌い、笑顔になる姿はとても印象的であった。対象にあったパフォーマンスをすることの重要性が分かった。
二つめは「共につくること」である。どういった場面でも価値観が違ったり、理解度が違ったりすれば、共に何かをつくることは難しい。しかし、酒井さんと宮脇さんは、わかりやすい言葉や音を選ぶことに努めていた。それによって、共通項が生まれ、利用者が引き込まれていった。ケアのあり方やコミュニティづくりのヒントとなるものであった。

〈当日のプログラム〉
1.「雪」(作詩・作曲:不詳)
(声がよく出る体操)
2.「たき火」(作詩:巽聖歌、作曲:渡辺茂)
3.「お正月」(作詩:東くめ、作曲:滝廉太郎)
4.「春よ来い」(作詩:相馬御風、作曲:弘田龍太郎)
5.「川の流れのように」(作詩:秋元康、作曲:見岳章)
6.「リンゴの唄」(作詩:サトウハチロー、作曲:万城目正)
7.「青い山脈」(作詩:西条八十、作曲:服部良一)
8.「上を向いて歩こう」(作詩:永六輔、作曲:中村八大)
9.「幸せなら手をたたこう」(作詩:木村利人、作曲:スペイン民謡)
〈クリスマスメドレー〉
10.「サンタが町にやってくる」(作詩:ヘヴン・ギレスピー、作曲:フレッド・クーツ)
11.「ジングルベル」(作詩・作曲:J・Sピアポント)
12.「あわてんぼうのサンタクロース」(作詩:吉岡治、作曲:小林亜星)
13.「赤鼻のトナカイ」(作詩:新田宣夫、作曲:ジョニー・マークス)
14.「きよしこの夜」(作詩:ヨゼフ・モール、作曲:フランツ・グルーバー)
15.「故郷」(作詩:高野辰之、作曲:岡野貞一)

筆者の情報
同志社大学社会学部社会福祉学科4年生。国際福祉ゼミに所属。児童労働や人身売買に関心を持つ。「元ストリートチルドレンへのケアの実際と可能性—フィリピンの児童養護施設カンルンガンを追ってー」を卒業論文として執筆。