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15年前にスタートした「ケアする人のケア」の研究事業。立ち上げ当初に出会った二人がそれぞれの気づきや成長を語り合うコラム。

北海道の中村さんへ

奈良の森口です。
あっというまに年の瀬です。このコラムがアップされるのは年明けになるでしょうか。
今年の北海道は、早くも何度か大きな寒波がやってきていましたね。札幌市は大丈夫ですか。
去年の夏に札幌の大通りを歩きましたが(学会参加のためで、ほぼとんぼ返りだったのですが)、今頃はあの景色が真っ白になっているのかなと想像しています。

関西もかなり冷え込んでいますが、雪が積もるわけでもなく景色は寒々とするばかりです。仕方がないので今回は秋に撮影した写真を添えます。すすき野原は葛城山の夕焼けです。

さて、中村さんが前回書かれていた「職場で起きた大きな出来事」というのは解決に向かいましたか。
ケアの営みは本当に心が揺さぶられますね。専門職というのは、そこを超えてこそ熟達の域に至るのでしょうね。もちろんこれは、「揺らがない」ということではなく、揺らいだとしてもちゃんと立て直すことができるということだと思います。そして、もちろんそこには、中村さんが書かれていた「周囲の人の支え」が不可欠ですよね。
「周囲の人の支え」があれば、少々大きく揺らいでも立ち直ることができます。揺らいでも大丈夫だということは、それだけ相手の苦しさを受け止めるキャパシティが大きくなることなのだと思います。

前回の中村さんのコラムを読ませていただいた日は、私が勤めている大学で、夏に実習をした学生さんの振り返りをする授業をしていて、ちょうど「セルフケア」の話になった日でした。
授業では、「実習先で落ち込んで、なかなか立ち直ることができなかった。みなさんはどうやって切り替えをしているのですか」という一人の学生さんの問いかけに、同じクラスの学生たちや複数いる教員がそれぞれ自分のことを話していきました。
その授業では、私も「やっぱり家族かな。帰れば家事をしなければならなくて、子どもができたら切り替えざるを得なくなった」というような話をしたのですが、そんな話をしながら、実は私の心にはもう一つ別の光景がよみがえっていました。

現場で働いていたとき・・・なので、もう20年近く前になりますが、私は朝からずいぶん落ち込むことがあり(もう今はそれが何だったのかは思い出せませんが)、昼食の時間になっても気持ちが切り替えられずにいました。食堂では、障害のある利用者や職員が自由に食事をするのですが、その日はたまたま食事介助を誰にも頼まれていなかったこともあり、私は大きなテーブルの端で一人で黙々と、落ち込んだ気持ちのまま食事をしていました。
するとそこに、軽度の知的障害のあるA君がやってきて、私の隣に座って食事をし始めました。A君は、私の顔を見るといつも必ずあれやこれやと話しかけてくる利用者です。それも「一人で勝手にしゃべる」というよりは、「・・・なんやけど、どう思う?」「・・・は最近どうしてんの?」と、応答を求めて話しかけてきます。
彼の明るい性格は人を元気にする力があるのですが、その日は、落ち込んだまま食事をしている私の隣にA君が座ったとき、私は内心「今は話しかけられても困るわ。勘弁して・・・」と思ってしまいました。
ところがA君は私の予想に反し、なんと最初から最後まで、私の隣で黙って食事をしたのです。こんなに近くに居ながら彼が私に話しかけてこなかったというような事は、この時が最初で最後だったのではないかと思います(今でも私は時々彼に会いますが、やはり必ず顔を見ると話しかけてきてくれます)。
私に何かショックなことがあったことは、彼はもちろん知りません。けれども、彼が座った位置から考えると、彼はただ空いていた椅子に座ったというより、「私の隣に座った」と思えるのです。そして、「私と一緒に」黙って食事をしてくれたのだと感じるのです。
そして、その時に私と彼との間に流れていた何とも言えない空気を思い出すだけで、今でも何か深いところから癒されるように思うのです。

実習の振り返りの授業では、残念ながら時間が無くてその話を学生さんたちの前ですることはできませんでした。でも、このエピソードで伝えられることがあるとしたら、「立ち直る」ことも大事だけれど、「もうどうやっても立ち直ることができないと思われるようなときにこそ、見ることのできる風景がある」ということかなと思います。

ところで、2月に久しぶりにある高齢者住宅の職員向けに「ケアする人のケア」の話をすることになりました。あるご縁からなのですが、バリバリの現場の方に「ケアする人のケア」のお話をするのは本当に久しぶりです。
そんなわけで、うまくいくかどうかわからないのですが、「グリーフケア」の話から始めようかなと構想を練っています。

「グリーフケア」と言えば、中村さんとお出会いしたときにお話ししてもらって、最初のブックレットに掲載させていただいたのは、中村さんのお父様のお話でした。実は私の「グリーフケア」に関する学びは、あの頃がスタートだったのですよ。

このコラム、いよいよ「月刊」ではなく「季刊」のペースになってきました。でもぼちぼちいきましょう。自分(たち)のペースでいく!というのもセルフケアですよね(笑)。

では、新しい年が中村さんにとって幸せな年でありますように。

2014年12月 森口弘美