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奈良の森口さんへ
北海道の中村です。
今年も残り2か月あまりとなりました。こちらは春先から風が強い日が多い年だった気がします。台風で大きな被害も出ました。一方で台風が来たことで枯れる恐れのあった天然記念物の阿寒湖のマリモが蘇ったそうです。強い風によって湖の水が大きく動かされ、マリモの成育を阻んでいた藻が抜けて十分に日光があたり生き生きと育つようになりました。人にとっては強い風も激しい雨も厄介なものですが自然界ではその風も意味があるものになることを感じました。

【壁絵 酉の市 2016年】

前回のコラム「問うこと 問い続けること」をとても興味深く読ませていただきました。鷲田先生の本や講演は臨床の現場にいる者の心に響く言葉が満載です。自らに問い続けること。私も自分の人生に対して「どう生きるか」を問うような出来事がありました。私事で恐縮なのですが、夏真っ盛りの頃とある病気が判明しました。9月の治療開始まで全力で働き、倒れるように(大袈裟ですね)治療生活に入りましたが治療前に体力作りをし、体調をしっかり整えていたのでお陰様で経過は良好です。ただ今年一杯治療が続くのでもうしばらくは病院通いです。この夏10年以上ぶりに森口さんと再会できた時たくさんの励ましをいただき力となりました。ありがとうございます。お互い雰囲気は変わらず、でもより大人(笑)になっていましたね。

このような状況に突然なってみて考えたことがあります。今まで20年以上働いてきました。家庭と仕事と両輪で過ごしていた日々。それが仕事という片輪がある日から止まってしまいました。片輪が止まってしまうととても不安な気持ちになりました。この足元が崩れそうな感覚は不思議です。「私はこれからどう生きていきたいのか。」そう自分に問いかけました。もちろん復職する予定ですし、家庭での生活も療養面が入るだけで見た目は今まで通りです。しかし確実に何かが変わり、この先の生き方を考える出来事になりました。

実は前から今回のコラムでサードプレイスについて書こうと思っていました。ファーストプレイスは家庭、セカンドプレイスは職場や仕事、サードプレイスは家庭でも職場でもない心地の良い自分らしさを取り戻せる居場所とされています。セカンドプレイスを職場や学校とすると社会生活を営む場所、社会人として生きている場所と考えられるでしょうか。職場ではなくても、町内会でお仕事をしている人や施設病院等でボランティアとして活動している場合もその場所がセカンドプレイスになるのかも知れません。では近年都市社会学で大切だと言われているサードプレイス(第3の居場所)とは何でしょう。

【壁絵 渓谷の紅葉 2016年】

私は30代前半の頃、家でもない職場でもないもう一つの居場所をつくろうと思いました。単純に職場以外で自己実現できる場所はどこにあるだろうと考えて様々な事をやり、いろいろな方に会いました。ところがやればやる程自分が苦しくなっていったのです。仕事の延長になる内容であったとか、参加したグループの期待に縛られたり求められていることに応えられずに罪悪感すら持ってしまったりしました。その後私生活や仕事が忙しくなったこともあり様々な活動から足が遠のきました。
あれから15年以上経ちサードプレイスとは何だろうと考え直した時に、家庭人でもなく職業人でもなく誰かの期待に縛られることもなく過ごせる時間や場所がそれにあたるのではないかという一つの答えにたどり着きました。自分が自分でいられる時間や場所。そう考えると私を支えるサードプレイスは15年通っている陶芸教室にあったことに気づきました。好きな時間に行き自分のつくりたい物を作る。集まっている方々は老若男女様々ですがお互いの職業も身分もそこそこしか知らず、つくる作品を見せ合って話す。先生も「何をつくろう」という提案はせずどのようにつくったら良いかを教えてくれるだけです。(先生以外は)リーダーも居ないですし、それぞれが好きなことをして時々お話をしてとても居心地が良い。そのような自由な空間で「ものつくり」という自己表現ができる素晴らしいサードプレイスが私にはあったわけです。

サードプレイスでの自己表現と少し異なっていると感じるのは自己実現の場つくりではないでしょうか。自己実現は本来仕事で達成を目指すのがスムーズなのかもしれませんが、様々な理由で出来ない時職場の外でその場所を見つけようとする。または仕事とは別の能力や個性を実現させる場所を求める。私の場合は自己実現する場所をサードプレイスと考え探していて苦しくなってしまったと思います。今はその場として創作工房とんぼ玉をつくり、自分を解放する居心地のよい陶芸教室というサードプレイスもあります。とても幸せなことだと実感しています。ひとつ面白いなと思うのは、楽ちんで居心地のよい陶芸教室は私にとってはサードプレイスなのですが、それを運営している陶芸の先生にとってはセカンドプレイス(仕事場)という事です。私のセカンドプレイスは高齢者デイサービスであり創作工房とんぼ玉です。そこも誰かにとってのサードプレイスなのかもしれませんね。

今年は季節が足早に過ぎているようです。北海道も奈良も冬の寒さは厳しいですよね。寒いからこそ温かいことを楽しみたい。温泉やお風呂、お鍋やストーブのぬくもりなどホッとするひと時を大切にしたいです。こちらでは12月にクリスマス市という催し物があり雪がチラチラ降る中ホットワインやとろりと温めたチーズ、フランクフルトなどを食べて楽しんだりします。たくさん着込んで参加しようと思っています。森口さんの冬の楽しみは何でしょう。

では、お返事コラム楽しみにしています。
2016年11月 中村明子