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15年前にスタートした「ケアする人のケア」の研究事業。立ち上げ当初に出会った二人がそれぞれの気づきや成長を語り合うコラム。 今回は…

奈良の森口さんへ

北海道の中村さんへ
奈良の森口です。

今年の三月はいつまでも寒さが厳しかったように思います。私は2月の終わりには花粉症に備えて耳鼻科で薬を出してもらっていましたが、3月中旬頃までほとんど出番はありませんでした。

中村さんが前回のコラムで書いておられた「色彩と表現」についてのエピソード、とても説得力がありました。
もう10年も前になりますが、アメリカのケアする人のケアの実践を視察させてもらったとき、病院で取り組まれているアートのプログラムが、やはり「患者さんのためにと考えたアートが、スタッフのケアにも役立っていることに気づいた」という経緯によって広がったものだと聞いたことを思い出しました。
「ケアする側」か「ケアされる側」かに関係なく、その場全体にアートは何かをもたらすものなのでしょうね。

▼写真キャプション 奈良公園の梅(森口哲也撮影)

さて、2月の終わりと3月の始めに、高齢者住宅の職員さんを対象とした勉強会を2回行いました。今回はその2回目に行った「グリーフケア」をテーマとした勉強会の報告です。

職員向け勉強会といっても参加は自由だったので、あらかじめテーマをインフォメーションして関心のある方が十数人集まってくださいました。
最初に、グリーフケアの基本、つまり喪失のプロセスとそのケアの知識について、私が体験したエピソードを含めてお話しました。私からの話をとおして、各自が自分の経験を少しずつ思い出してもらえればという意図です。

次に、グループで「喪失体験から学んだこと」について語り合ってもらいました。「学んだこと」といってもほんの些細なことで良いということ、そして「喪失体験」は必ずしも「死別」でなくても良いことをお伝えしました。
話し合い(体験の分かち合い)は、4~5名ずつのそれぞれのグループで和やかに進められていましたので、私はあえて口出しせずにその場の雰囲気を味わいながら待つことにしました。グループでは主にご家族などお身内を見送った体験を語っておられる方が多かったように思います。

話し合いの時間が終わり、当初はグループから一つずつエピソードを発表してもらおうと考えていたのですが、「立ち上がってみんなの前で発表する」ようなことでもないような気がしてきたので、次のことについて思い浮かぶキーワードを書いてもらって終了することにしました。
それは、「喪失体験が私にもたらしたもの」または「喪ったものが私にもたらしてくれていたもの」です。

最後に書いてもらったキーワードについては、私はどなたのも見ていないのでわかりませんが、それぞれにいろいろ考えながら書いてくださっていました。
そしてこの最後の部分が、私がこの勉強会で最も伝えたかったことです。つまり、ここに書かれたどれもが、悲しみや心残りのようなネガティブなものも含めてすべて「大切なその人の存在の証」だというメッセージです。

このメッセージ、よくよく思い出してみたら、そもそも最初は中村さんが私に教えてくださったことだったと、今日になって気づきました!

「悔いが残る利用者というのは、いつまでも強く心に残るのです。決して忘れることはありません。その人が生きていた証と一緒に私は生きていく、それで良いのだと今は思っています。」(財団法人たんぽぽの家発行『生命に寄りそう風景―ケアする人のケア―』より)

この文章はたしか、中村さんがお話してくださったことを私が書き起こして、確認や修正をお願いしてできあがったものでしたよね。
中村さんのこのエピソードは、ちょうどその頃に同僚の闘病につきあい、やがて看取りに関わることになった私を支えることになりました。
病状が進行し看取りを予感するようになることは、傍らに居る者にとっては「この先取り返しのつかない悔いを残すのではないか」という懼れを抱くことでもあると思います。私が当時まったく未知だった看取りのプロセスに対して逃げずに向き合えたのは、中村さんのお話をとおして「たとえ大きな悔いを残すことになっても大丈夫だ」という気持ちを持てたからでした。

勉強会の最後は絵本「ぶたばあちゃん」の紹介です。みなさん、私のつたない読み聞かせにじっくりと聞き入ってくださいました。
勉強会をとおして大なり小なり揺さぶられた参加者の気持ちを、絵本というアートが慰めてくれたように思います。この絵本、本当に美しい絵で、ばあちゃんとのお別れが描かれているので、機会があったらぜひ読んでみてください。

▼本のキャプション マーガレットワイルド文、ロン・ブルックス絵、今井葦子訳『ぶたばあちゃん』あすなろ書房

いよいよもうすぐ新しい年度が始まりますね。
「とんぼ玉」(http://rekuactivity.blog.fc2.com/)の活動も今年は大きく前進されるとか・・・!
またこちらの活動についてもいろいろお聞かせくださいね。

2015年3月 森口弘美