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第4回は「噛む力と食事・食材」についてのお話です。噛む力があり、普通の食事をとっている高齢者への注意点や、食材・調理法を選ぶとき…

物を噛む(咀嚼する)能力の残っているお年寄りには、普通の食事が提供されます。食事を摂る動作は、前歯で適当な大きさに噛み切る、奥歯ですりつぶす、口の中で混ぜ合わせて塊にし、舌の運動でのどの奥に送る、気管の入り口を閉めて食道の方へ送り込むという一連の作業が反射的に行われます。
この場合外見的には正常に見えても、年齢的に反射能力が低下しています。若い人でも水や食べ物が気管に入ってしまい強い咳(むせ込み)が起こった経験をお持ちだと思います。こうした咳の反射で異物を出せる場合は大丈夫ですが、うまく出せない場合息が出来ず、窒息してしまいます。お年寄りの死亡原因で窒息は不慮の事故のうちでも最も多いもので、75歳を越えると急増します。肺に入ってしまった異物(食べ物・水・唾液など)による誤嚥性肺炎を加えますと、高齢者の死亡に関して嚥下の問題が大きいことが解ります。
少し前説が長くなりましたが、お年寄りの食事に関しては食材選びと調理法の選択が重要になります。前回(第3回)に少し触れましたが、見掛けは軟らかそうでも、いつまでも口の中で形や硬さが変わらない食材はけっこうあります。きのこ類(特にえのきだけ、しいたけ)、コンニャク、ラーメン、生ハム、生野菜(キャベツ、レタス、などは細く切っても繊維は強く残ります)、豚肉も筋切りをしても堅い部分が残っています。特に注意が必要なのはお餅、パンなど良く知っている食材です。お正月になるとお餅をのどにつめて亡くなったという記事に接します。パン、特に蒸しパンのようにもちもちとした食感のものはつるりと入ってしまいます。やっかいなのは、軟らかくて気管の奥に入りやすいこと、水分を含んでへばりつきやすいことなど、気管内異物除去法でもなかなか取りきれない危険性があります。口に入れる量に充分注意して、食べていただくことが重要です。
反対に高齢者は唾液の量が減るために、食物の滑らかさが不足して飲み込みにくくなります。ぱさぱさ食材でビスケット、クラッカーなどは解りますが、焼き海苔、魚でも、タイなど白身の魚は焼き魚では油分が少なくぱさつきます。調理の時にちょっと注意してあげてください。

[執筆者]
中島孝之

[プロフィール]
1943年生まれ。関西医科大学卒業同大学院修了。医学博士、脳神経外科専門医。1990年大和郡山にて中島医院開業。奈良県立盲学校校医・非常勤講師。元大和郡山市医師会会長。1998年大和郡山市介護保険要介護認定モデル事業委員長、同市要介護認定審査委員。奈良介護保険研究会世話人。