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心がつらいとき、人はポジティブな言葉に出会いたいと思うことが多いですが、カフカの人生論はそれとは真逆です。新しい力が湧き出てくる…

20世紀を代表する小説家の一人として名前があげられるフランツ・カフカ。著名な代表作『審判』以外にも名前を聞いたことのある人は大勢いるでしょうが、実はカフカが生存中に有名になったわけではなかったようです。
本書は、カフカが社会のありとあらゆる自分に関係するものを「絶望」と捉え、ネガティブに展開されていきます。とことんネガティブになりきる。そのときはとことん苦しいどん底状態ではあるのですが、その苦しみこそがカフカの力の源だったと説かれています。

ポジティブ人生を志向する人からは、カフカの人生論は容易には受け入れられない考え方なのかもしれません。カフカは自信に満ち溢れ相手をコントロールしようとする人との距離をもち、自分を誰より弱い人と捉えていくようになります。

『ぼくの弱さーもっともこういう観点からすれば、じつは巨大な力なのだがー』

世の中にはポジティブパワーが氾濫していますが、ネガティブからもまた力を引き出せることを、カフカは本書で教えています。

周囲の多くの人はどうしても、それをもどかしいと感じますが、「ただひたすら待つ」こともときには大事なのです。

『絶望名人カフカの人生論』フランツ・カフカ著/頭木弘樹編訳 株式会社飛鳥新社より発売中

[執筆者]
太田啓子

[プロフィール]
立命館大学 衣笠総合研究機構 客員研究員。博士(学術)。専門は、障害者福祉、障害学。「職業訓練における指導員のジレンマ-職リハの取り組みを通して」横須賀 俊司, 松岡 克尚編著『障害者ソーシャルワークへのアプローチ―その構築と実践におけるジレンマ―』など執筆。