2017年1月22日に福島で開催される「ケアする人のケアセミナーin福島」は、ひろくケアに関わる人を対象とした、学び合いとつながりの場です。本コラムでは、そのプログラムについて少しご紹介します。
ケアする人のケアセミナーは、一般財団法人住友生命福祉文化財団と財団法人たんぽぽの家が、2006年より全国各地で開催しているセミナーです。ケアする家族、人を地域コミュニティ全体で支えていくために、先進事例や地域の情報を交換すること。参加者一人ひとりの思いを行動につなげるきっかけとネットワークをつくることを目的としています。参加費無料で、テーマに関心のある方ならどなたでもご参加いただけます。
今年は、2017年1月22日に、福島で開催されます。ここで、基調講演を行うのが、金菱清さん(東北学院大学教養学部地域構想学科 教授)。金菱さんの専門は「災害社会学」、「環境社会学」です。
霊を乗せて走るタクシーの話、と聞いて、ある新聞記事を思い起こす方もいるかもしれません。2016年1月に新聞に掲載され、話題をよびました。その記事のもとになったのは、金菱清〔ゼミナール〕編の書籍『呼び覚まされる霊性の震災学――3.11 生と死のはざまで』です。
「震災による死」に人々はどう向き合い、感じてきたか。
金菱清〔ゼミナール)のゼミ生たちがフィールドワークを重ねて書き上げた卒業論文をまとめたものです。そのなかには、宮城県石巻市のタクシー運転手たちが体験した「幽霊現象」をテーマに選んだ学生もいました。
石巻地域でタクシードライバーが、震災以降、密やかに体験している幽霊現象(それは記録やメータを切ることからも確かめられるそうです)。それに注目し、100人以上のタクシードライバーに取材をし、論文を書き上げました。
それによると、彼らに共通することは、恐怖というよりも、霊現象に対して畏敬の念をもって接していることだといいます。
死に、人々はどう向き合うか。
目にみえない霊性の世界と、つながりをもって生きるということは、どういうことか。東北地方には死者とともに生きる文化があり、生命を慈しむ心を育てている人たちから復興のあり方が見えてきます。
今回の基調講演では、生きとし生けるものが回復するためのまちづくりを通して、精神的な復興について考えます。
セミナーでは、ほかにも、講演や、コンサート、ユニバーサルマルシェなどが予定されています。
また午後には、次の3つのテーマに分かれて、分科会が実施されます。①ともに回復する現場、②ケアする家族をどう支えるか、③てつがくカフェ ~ 希望を編む ~。
① で事例報告を行うのは、震災後も地域にとどまり、活動を続けてきた支援者たち。5年のときを経て、葛藤と希望のあいだから見えてきたケアや福祉のあり方とはどのようなものなのでしょうか。
② で事例報告を行うのは、ケアする家族を支える仕組むづくりに取り組む方々。子育てや介護をめぐる課題と、必要な取り組みや仕組みについて話し合います。
③ のてつがくカフェでは、通常当たり前だと思っている事柄からいったん身を引きはなし、「そもそもそれって何なのか」といった問いを投げかけ、参加者のみなさんとともに、「対話」をとおして考えていきます。
震災から5年が経ち、さまざまな困難を抱えながらも回復していく活動が生まれています。そうした活動の実践者の経験に学び、これからについて共に考えることは、私たち一人ひとりにとって、とても大切なことなのではないでしょうか。
「ケアする人のケアセミナーin福島」は、現在、参加申し込み受付中とのこと。
プログラム詳細、お申し込みは、こちらのウェブサイトをご覧ください。
★書籍『呼び覚まされる霊性の震災学――3.11 生と死のはざまで』
[執筆者]
井尻貴子
[プロフィール]
NPO法人多様性と境界に関する対話と表現の研究所事務局長、NPO法人こども哲学おとな哲学アーダコーダ理事。大阪大学大学院(臨床哲学)博士前期課程修了。哲学、アートに関するプロジェクトの企画・運営・編集・執筆などに携わっている。また、街中や学校にて哲学対話の進行を行い、多様な人と一緒に問い、話し、考える場をひらいている。