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15年前にスタートした「ケアする人のケア」の研究事業。立ち上げ当初に出会った二人がそれぞれの気づきや成長を語り合うコラム。ケアの仕…

北海道の中村さんへ 奈良の森口です。 往復書簡が始まって1年になるのですね。そういえば、昨年は中村さんたちが立ち上げた「アートアクティビティ創作工房とんぼ玉」から、こいのぼりの壁絵のセットを購入して、子どもたち二人と制作したのでした。 今年は、次男(4歳)の通っている保育園のクラスの保護者親睦会が4月にあり、幼稚園の先生をされている保護者の方のリードでこいのぼりを作りました。

こいのぼりの模様は野菜のスタンプです。レンコンの輪切りがしっかり押されています。てっぺんについている風車はちゃんと風で回るようになっています。 子どもたちは作る過程も完成した後も大喜びでした。さすがに4歳児が全部作るのは難しく、保護者と一緒に作るという感じで親子で楽しい時間を過ごしました。なかでも、お父さんたちがけっこう集中して作っておられたのが微笑ましい光景でした。 さて、前回の中村さんのトピックは、断捨離ならぬ、整理整頓でした。 それで思い出したのが、今年の春に新しく長男の担任になった先生が家庭訪問に来られたときのお話です。家庭訪問では担任としての方針をいくつか話してくださったのですが、その一つが「学級通信は出しません」ということでした。5年生にもなれば学校であったことを自分で伝えられるし、通信をとおしてではなく、家族で直接コミュニケーションをとってほしいという説明でした。また「自分で考えて取り組む宿題を出します。宿題の量は少ないけれど、答え合わせも自分でやって、間違えたところを確かめることまでが宿題です」とも話されました。 学級通信が配られるのも、学年が上がると宿題の量が増えることも当たり前のように思っていましたが、言われてみれば確かに担任の先生がおっしゃるやり方のほうが学級通信や宿題の本来の趣旨に合っているように思います。シンプルかつ明瞭なお話がすっと納得できた春のスタートでした。(ただし、長男が、少ない宿題に「自分で考えて取り組む」ことができているのかどうかは別の話ですが・・・。) ケアも教育も、「熱意をもって丁寧にすること」と、「たくさんのことを実際に行う」ことをつい混同してしまいがちな仕事かもしれません。まさに「感情労働」の際限のなさであり、数字で表せるような達成度の評価がないなか「良いと思われることを重ねていった結果、負担が大きくなる」という事態は容易に起こってしまいますね。 私も現場で働いていた頃はその傾向があったように思います。若かったせいもあったでしょう。もしかしたら、そのたくさんのことの中から取捨選択することのほうが、高度な判断力が必要なのかもしれません。

【4月の馬見丘陵公園にて】 では、仕事をするうえで取捨選択するにはどうしたらいいのか。せっかく公開される往復書簡ですので、今回はケアする人のケアで実施した調査で見えてきたポイントを一つ紹介したいと思います。それは、自分自身の仕事の目的がどこにあるのかを中心に置くということです。 ケアする人のケアの事業では、2006年度に「職場環境調査」を実施し、いいケアをしているすぐれた職場と思われる事業所を探してインタビュー調査をさせていただきました。 調査では、一緒に調査に行った大学の先生が、インタビューの最後に「あなたの組織の目的は何ですか?」と尋ねておられました。インタビューのなかで職場の良さや課題、組織の理念や特長、そして自分自身がこの仕事に就いた経緯や理由、今後の希望などを語った後、「あなたの職場の目的は何ですか?」という質問に対して調査協力者(看護師や介護福祉士)から出てきたのは、その人の個人的な夢と組織の方向性とが重なり合ったステキな目標でした。たとえば・・・ 「自分の抱いていた精神科のイメージが、この病院に来て覆ったように、地域の人たちのイメージも変わっていけばいいな」(岩倉病院) 「年をとっても弱くなっても、自分らしく生きていけるんだという証明をキートスができればいいなと思います。」(至誠キートスホーム) (報告書『ケアの仕事をする人のケア-ケアサービスの職場環境を考える』(財団法人たんぽぽの家発行2007)より)

「あなたの組織の目的は何ですか」と尋ねられて、こんなふうに答えられるのはやはりステキなことだなと思います。取捨選択をするというのは難しいことですが、その時の判断の根拠は「自分の仕事の本来の目的はどこにあるのか」に求めるしかないのかもしれません。 中村さんは、人生の整理整頓ということで、「とんぼ玉」の活動に舵をきられるとのこと。そうやって舵がきれるのは、自分が仕事をする目的や自分のなりたい姿をきちんと捉えておられるからかなと思いました。私も中村さんを見習い、仕事もそうですが、生きること全体において、「何が大事か」に立ち返る習慣を身に着けたいなと思います。頑張って家事や育児をしても、幸せでなければ何もなりませんからね。 「とんぼ玉」の新しい展開、奈良から私も楽しみにしています。新しい出会いや発見など、またぜひお聞かせくださいね。 2015年5月 森口弘美