ケアすることは関わり合いを持つということ。関われば関わるほど、知らないうちに影響を受けています。ずっと続くと思っていたケアが突然…
奈良の森口さんへ 北海道の中村です。 10月に入り、爆弾低気圧と台風で大荒れの北海道です。雪虫というお尻に小さな綿がついたように見える小さな虫が飛ぶと2週間ほどで初雪が降ると言われています。雪虫目撃の情報がすでに出ているのでこのコラムが出る頃には初雪が降っているかもしれません。 奈良公園に歩いて行けるところにご自宅があるなんてうらやましい。奈良大好きな私にとっては垂涎の的です。ミニトマトを食べている鹿を想像して笑ってしまいました。こちらの畑はもう仕舞いの時期で、次の作物の栄養となってもらうため収穫し終えた作物の葉や茎や根を土の中に埋めています。11月に入る頃には大根以外はすっかり片付いて雪の季節を迎えます。大根は強い作物で雪が降ってもしばらくは収穫できます。すごいですよね。 体調不良からセルフケアの方法を見つけるまで大変な時期があったのですね。私も「体を緩めるヨガ」を始めて8年位になります。森口さんが感じたように現代社会で生きていく中で何かに急かされているように私も感じていました。頭で考えることが多くて、体が置き去りになっているという思いがあります。ヨガを通して普段の呼吸の浅さと息を止めてしまう癖にも気がつくことができました。呼吸がしっかりしていなければ血液も体液も滞ってしまいますよね。俗にいう「気・血・水」です。気が回ると血液が回り体液も回る。循環し続けて滞りがないことがしなやかな体をつくることだと最近は意識しながら生活をしています。
壁画絵「秋・つるし柿」 今回のコラムは私の近況の中からお話しをしたいと思います。 私は介護保険下で介護支援専門員(ケアマネージャー)として数人担当させていただいていました。その中で11年担当した方が先月とうとう施設へ入所となり在宅支援が終了となりました。 少し説明させていただくと、ケアマネージャーは在宅担当と施設担当があります。在宅ケアマネは居宅介護支援事業所というところで勤務していますが、施設のケアマネはその施設の職員として在籍しています。介護保険は在宅と施設でシステムが変わるため、在宅生活をしていた方が施設に入所した時点で在宅サービスは利用できなくなります。よって私の担当も施設入所と同時に終了となるのです。※施設とは介護保険施設になります。
壁画絵「蔦の紅葉」 その方はご家族がお仕事の関係で遠方に住んでいて独居の方でした。足が悪く、いつもいろいろな痛みや体調不良に悩んでいて、寂しがり屋で、頑固で、わがままで、よく怒りよく笑う方でした。事業所の近くに住んでいたので具合が悪いと言われては様子を見に行き、「ラジオがつかない」「電話がおかしい」と言われては直しにいきました。ホームヘルパーと通所サービスの職員の協力もあり皆で在宅生活を支えてきました。介護保険という制度のサービスで関わってきた方ですが、お付き合いが長くなってくるとそれ以上のなにか親戚のような親近感を持つ関係になった気がします。だからといってあくまでもサービス側と利用者さんなのでそこの間はきちんとわきまえる様注意しながらの関わりでした。 担当した当初は「数年くらい」のお付き合いかなと思っていましたが、11年になると「このままずっと担当するのではないか」と漠然と感じていました。つかず離れずこのまま寄り添っていくのだろうと。しかし、今年になって短期間に身体面も脳機能面も低下してきて、在宅支援のサービスだけでは一人で生活できない状況になりました。ご家族と連絡を取り合いながら施設の入所先を至急探すことになり、いくつもの施設に相談してやっと受け入れてくれるところを見つけました。決まると事は早いもので「明日入所できます。」との連絡で荷物をまとめて引っ越しました。 担当の終了は実に淡々としたもので、「はい、お疲れ様でした。」とその日を境に私ができることはほぼ無くなってしまいます。ホッとしたような肩の荷が下りたような、でも寂しいような不思議な気持ちでフワフワしていたのですが、「このフワフワした気持ちが何か分かるまでそのままでいればいい」と思い生活をしていました(この辺りはケアする人のケアで学んだことが生かされています)。ある日上司に「お前はもう担当じゃないのだからな」と言われました。その時に突然気が付いたのです。ずっとその方の人生につきあう気でいたのに、最期まで寄り添うことはできないという事実に。 私たちはある方の人生の時間に寄り添ってお手伝いをします。でもその期間はどの位なのかは分からない。そして最期まで寄り添い続けられることはとても希少だという当たり前のことに実感を持って気づいた出来事でした。私たちの前を利用者さんの人生が横切る時もあれば、私たちが異動や転職などで利用者さんの人生の前を通り過ぎることもあります。これからは有限であるがゆえに関わりを持つ時間をより大事にしたいと強く思いました。まさに一期一会の仕事です。 前回のコラムで森口さんがおっしゃっていた「自分は何をしたいのか」「どう生きていきたいのか」という生き方の原点と「ケアの仕事は人の役に立つ仕事である」という原点。そして今回実感した、ケアは一期一会の有限の出会いであること。これらの事を日々の生活で忘れてしまっても、また思い出し気づき直すことを繰り返して生きていけたらいいのかなと感じています。 今年の奈良はどのような秋を迎えるのでしょう。夜も長くなってきて本を読むには絶好の季節になってきました。読みかけの本がたくさんあり(苦笑)、それを読み切ることを楽しみたいと思います。これからもヨガをお互いに続けていきましょうね。 2015年10月 中村明子