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特に介護や看護の仕事において問題になっている「バーンアウト」。その引き金となるものとは?

北海道の中村さんへ 奈良の森口です。   とうとう年があけ、1月も下旬に差し掛かろうとしています。 過去のコラムを確認すると、前回私が書いたのがなんと9月。本当に季刊になりつつあります…(汗)。   記録的な暖冬が一転して全国的に大雪の様相、中村さんのお住まいの札幌はいかがですか。 京都も久しぶりの雪景色です。


(雪が降った1月に撮影/雪が重そう・・・)

(同じ場所で1週間前に撮影)   さて、大学は年が明けると年度末モードになっていきますが、この時期にとても達成感を共有できる授業があります。それが、夏休みに行った「社会福祉実習」(社会福祉士の資格をとるための実習)を振り返る授業です。毎年50~60人程度がさまざまな機関や施設に実習に行き、秋からは一人一人の振り返り、グループでのディスカッションを経て、履修生全員が参加する大教室で実習で学んだことの報告会をします。 私自身は社会福祉士の資格もなく、実習に行った経験もなく教員をしているのですが、資格がないことは何とも思わないのですが、学生時代にこんな実習を経験できるという点については、毎年学生の成長過程を見ていてとてもうらやましく思います。   今回のコラムでは、そんな実習の報告会のエピソードを紹介します。 今年は病院に実習に行った学生たちのグループが特に良い報告を行いました。報告が終わってから、ある非常勤の先生がコメントの冒頭に「とても良かったと思います。完璧だと思いました。でも、完璧さというのは人を傷つけるんです」とおっしゃいました。その先生のコメントの続きはとてもポジティブな内容が続いていって、全体としては「お褒めの言葉」のような印象だったのですが、その冒頭にはさまれた「完璧さというのは人を傷つける」という言葉が個人的にとても印象に残りました。   その先生は実践現場の方なのですが、「専門職である」ことと同じぐらい、「一人の市民である」「一人の人間である」ことが大事だと常々主張されています。確かに、支援者が完璧であるというのは、もしかしたら支援を受ける相手を傷つけることがあるかもしれないと思わされました。 そして同時に、私の中にはもう一つのフレーズが浮かびました。「完璧でなければならないと思うことは、自分を傷つけることがある」ということです。   そんなことを考えたのは、バーンアウトをめぐって常々考えていることがあったからです。 私は「ケアする人のケア」というテーマで、ケアの仕事をしている人たちに向けて講演やワークショップをさせていただく機会がありますが、その時に「ご自身がバーンアウトする可能性があると思う方は手を挙げてください」と会場に声をかけると、何人かの方が手を挙げられます。そこで私は、「今、手を挙げられた方は大丈夫ですよ」とお伝えします。ちょっとウケるネタなのですが、ウケを狙っているだけではなくて、これにはちゃんと理由があるのです。   私はあるときから「理不尽さを感じることはとても疲れる」と思うようになりました。バーンアウトというのは、「働きすぎ」というよりも「理不尽さ」が引き金になるのではないかと思うのです。 たとえば、たんぽぽの家のような非営利活動団体の仕事は、いくら働いても儲かるわけではなく、仕事の量に対して人手が不足してどうしても長時間労働になってしまう傾向があります。けれどもその中で頑張っている同僚と一緒に、仕事の趣旨に納得してやりがいをもって仕事をしていれば、バーンアウトはしないのではないか(過労死はまた別かもしれませんが…)。ところが、そんな人がたとえば学生時代の友達に会って、自分よりも楽そうな仕事で高給を得て遊んでいるのを知ったら…なんだかちょっと理不尽な気持ちになるかもしれません。   ケアの仕事というのは、弱くなって頑張れなくなった相手をまず「受容」することが求められます。「今は頑張れないんですね」「弱くてもいいんですよ」と、その相手を肯定していきます。一方で、そのケアする人自身が自分に対しては、「完璧でないといけない」、「強くないといけない」と過度の頑張りを求めてしまっていたら・・・これは「理不尽」以外の何ものでもないと思うのです。   「自分はバーンアウトするかもしれない」(そういう弱いところがある)と自分で認めることができ、そして人前でそれを表明できるというのは、少なくともそういった意味での「理不尽」さに追い詰められることはないのかなと思います。   「完璧でありたい」と思って前向きに頑張ろうとすることは、特に若い学生にとっては大事なモチベーションにつながります。でも、「完璧さ」にとらわれるのではなく、「人は完璧ではない」という前提を、相手にも自分にも当てはめて認めていけたらと思いました。

(京都市上京区にて撮影)   最後の写真は、職場の近くの梅のつぼみです。春を告げる花は咲いたときも嬉しいですが、この一番寒い時期に着々と色づき膨らみ始めているのを確かめるのもとても嬉しいです。 この次の中村さんのコラムでは、春の壁絵を見せていただけるでしょうか。フェイスブックでも、少しだけ季節の先取りをしている壁絵を、いつもとても楽しみにしています! 創作工房とんぼ玉フェイスブックページ https://www.facebook.com/profile.php?id=100009607869109&fref=ts   2016年1月20日 森口弘美