第5回は「噛む力と飲み込む力が低下した方の食」についてのお話です。食べやすさや栄養摂取のみを優先するのではなく、そこに楽しみを加…
前回は物を噛む力の低下している方への食事・食材についてお話ししました。今回はさらに老化や認知症などの病気によって、噛む力と飲み込む力が失われてしまった方への食について考えます。
最近いくつかの食品会社、薬品会社からムース食、飲料などが販売されています。カレーライス、ハヤシライス、マーボ豆腐、海苔佃煮味といったよく知られた味が用意されています。ご飯はどろどろの状態で蓋を開けるとご飯の上におかずをかける形になっていて、そのまま噛まずに呑み込めるようになっています。入れ物もきれいなパッケージに入っていてなかなか美味しそうです。介護を受けている方々にも食の楽しみを味わっていただきたいと思います。
よく利用されているミキサー食は、主食やおかずをミキサーに入れ、どろどろの状態で提供されます。栄養的には完全ですが、見た目はとても食欲がわいたり、食を楽しむという状態ではありません。先ほどの商品はこうした点の改良がおこなわれていますが、まだまだ販売されている食品の種類は多くありません。
さらに進んで、個別の介護食にも一品ずつ、食品の形、色彩、もちろん味も同じになるように調理して、「食べる」という大きな楽しみを加えることが、管理栄養士の力で次々と行われています。また単に美味しいというだけでなく、本人のご希望に応じて、例えばいつも作っていた餃子を食べたい、うどんや鍋物を、好きな果物をといった注文や、和食に特有の季節感にも配慮して、おせち料理(黒豆、昆布巻き、紅白なます、かまぼこ、数の子、伊達巻など)、年越しそば、お雛祭りのちらし寿司といった食品についても、ムース化して専用の凝固剤で固めることで形を整え、食卓に並べるといった、普通の食事のように食べられる工夫が行われています。こうした恵まれた食事が提供できるのは限られた場合ですが、いずれこのようなサービスが当然となると思います。
今後はお宅にうかがって調理をする時に、こうした食品の工夫が行われていることも参考にしていただいて、ご本人、介護者、ケアマネ、管理栄養士との連携で、美味しくて楽しい食事となるように努力してみてください。
[執筆者]
中島孝之
[プロフィール]
1943年生まれ。関西医科大学卒業同大学院修了。医学博士、脳神経外科専門医。1990年大和郡山にて中島医院開業。奈良県立盲学校校医・非常勤講師。元大和郡山市医師会会長。1998年大和郡山市介護保険要介護認定モデル事業委員長、同市要介護認定審査委員。奈良介護保険研究会世話人。