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第5回は、認知症に対する医療について。今回は「薬剤による療法」についてのお話です。現在おこなわれている薬剤による治療法や考え方が…

認知症に対する医療 現在アルツハイマー病にもちいられている薬剤には4種類あります。アルツハイマー病は、神経細胞が障害されて、細胞の間で情報をやりとりする機能の低下が進むことにより、認知症症状を悪化させることが知られています。これらの薬剤は神経細胞のつなぎ目(シナプス)での連絡機能の働きを助けるものです。いいかえれば機能の低下を食い止めるのではなく、悪化してゆく機能障害を少しでも軽くしようという治療法です。 本来の治療薬であれば、神経細胞の破壊を止めることが目的で、これができれば症状の進行を防げます。つまり、アルツハイマー病の診断がついた時点から悪化が起こらないことになります。しかし残念ながら現在の薬剤では、この点まだ不十分だと言わねばなりません。また、こうした本来の治療薬の開発も日本をはじめ世界各国で競って開発が進められていますが、できては消え、できては消えることがくりかえされ、当分望めないのが現実です。 こうした薬剤に加えて、BPSD(周辺症状)に対して、少しでも症状が軽減するように、向精神薬や漢方薬など数種類の薬が使われています。ただこれらの薬剤は使用量の決め方も難しく、効果の判定もそう簡単ではありません。社会生活が円滑にできなくなった時には、精神科への一時的な入院も検討されます。 これに対して、アルツハイマー病に対する診断法は大きく進歩しています。まだ試験的なものが主ですので、どの医療機関でも行える訳ではありませんが、脳の中の化学的な変化(アルツハイマー病に特有の化学物質の量を、目に見えるようにする画像診断の技術)や、脳脊髄液の検査などから、早期に診断が可能となってきました。このことは、例え効果の薄い薬剤でも、早期に加療を開始することで、病気の進行をずっと遅らせることができるであろうと考えられています。 発病の予防については、多くの研究がありますが、まだ決定的なものはありません。こうした予防法を含め、薬物以外の療法については、次回お話しします。 【この原稿は、奈良の地域マガジン『さとびごころ』http://satobigokoro.org/から提供いただき再掲したものです。】 [執筆者] 中島孝之 [プロフィール] 1943年生まれ。関西医科大学卒業同大学院修了。医学博士、脳神経外科専門医。1990年大和郡山にて中島医院開業。奈良県立盲学校校医・非常勤講師。元大和郡山市医師会会長。1998年大和郡山市介護保険要介護認定モデル事業委員長、同市要介護認定審査委員。奈良介護保険研究会世話人。