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パン作りは、朝うんと早く始まり、仕込みが夜まで続くというイメージがあります。でも、本当にそうなんだろうか? パンに学ぶ、しあわせ…

パンに学ぶ、しあわせな経済学近所のパン屋さんが、すこし前に閉店になりました。

「おいしかったのにどうして?」と尋ねると、「パン職人はタイマーとの戦い。からだが持たなかった」とのこと。心から残念に思いました。パン作りは、朝、うんと早く始まり、仕込みが夜まで続くというイメージがあります。でも、本当にそうでしかありえないんだろうか?

『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』は、東京出身のご夫婦が、東北大震災をきっかけに出雲街道の勝山で開いたパン屋さんが舞台。ご主人の格さんが休みなく働かせられるパン屋の下働きに疑問をもったところから物語は始まります。

農に関心のあった格さんは微生物の力に魅了され、酒種などさまざまな酵母と格闘。納得のいくパンを作り、それに見合った値段をつけて売ります。コンビニやスーパーのパンと比べると安いとは言えません。でも、それは、利潤を追求しているからではなく、再生産可能な人や自然の循環にこだわっているから。仕込みに時間がかかるため、お店の開店は週に3日。できるだけ地元の農産物にこだわり「地域通貨のようなパン」を目指す。このご夫婦の姿勢が共感を呼び、智頭町に移転した現在も人気が絶えないとのことです。

もう1冊、わたしの大好きなパン屋さんの本を。『ベッカライ・ビオブロートのパン』。

こちらは都会、兵庫県芦屋市の小さなパン屋、松崎太さんの物語。ドイツでマイスター取得。一人で製作するために生地は4種類のみ。健康管理に気を遣い、休暇をしっかりととり、そして、時間があれば心の栄養に本を読む。ひたすらにシンプルで味わいのよいパンを追求する姿勢には、芸術性すら感じます。

ちかごろは奈良にも個性的でおいしいパン屋さんが増えてきて、パン好きとしては胸が高なります。どうか、持続可能なパンづくりをと願わずにはいられません。

【この原稿は、奈良の地域マガジン『さとびごころ』http://satobigokoro.org/から提供いただき再掲したものです。】

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 渡邉格/著 講談社

ベッカライ・ビオブロートのパン 松崎太/著 柴田書店

[執筆者]
嶋田貴子

[プロフィール]
2002年より奈良暮らし。図書館司書を経て、奈良の地域マガジン『さとびごころ』の編集&執筆に携わる。 あちこち出かけて、見たり、知ったり、食べたりすることが好き。そして、志のある人に出会って、お話を伺うのも大好き