今回、視察に訪れたのは「ベルデさかい」。重症心身障害の人に対して、必要なケアを総合的に提供する施設です。
ベルデさかいは、重度の知的障害、身体障害を併せ持つ「重症心身障害」の人に対して、必要な医療、看護、療育、介護、リハビリテーションを総合的に提供する施設です。医療施設としての設備も備えています。入所50名、短期入所10床、通所(生活介護)20名定員で運営されています。
堺市立健康福祉プラザに併設された形で施設が存在しており、健康福祉プラザには「市民交流センター」や「視覚・聴覚障害者センター」「発達障害者支援センター」「難病患者支援センター」等、主に障害のある人たちのためのさまざまな支援センターの事務所があります。また、大きな体育館もあり、様々な人たちが利用できる交流の場となっている様子が伺えました。
ベルデさかいがACPに取り組み始めたのは、新型コロナウィルス流行期。職員のなかから「コロナ禍での面会制限により家族とゆっくり話ができないなかで、どのように支援すればいいのかわからない」という声があがったことで、2021年にACP推進チームを立ち上げ、取り組みが始まりました。
ACPは、医療や看護の側面、特に終末期の医療面での選択という側面から語られることが多いですが、特に医療的なケアが必要な重症心身障害のある人たちにとって、医療は日常生活のなかにあり、切っても切り離せない関係です。にもかかわらず、ACPを人生の終末期に限定するという考え方に違和感を感じられたそうです。また、生活の場が自宅(家族と一緒)から施設に移り、主たる介護者が家族から施設職員に変わっていくなかで、「これまで、この人がどんな風に生きてきたのか」「今、この人は何が好きでどんな生活を送りたいと思っているのか」「これから本人や、家族の状況が変化するなかで、どう支援をしていくのか」を、家族と一緒に対話を大切にしながら考えていきたい、という思いを持たれ、そのこと自体がACPと捉えられるのではないかという考えに至った、ということでした。
職員のACPに対する認識を深めること、家族との対話が生まれるようなファミリーカンファレンスの設定、家族・職員合同勉強会の開催等に取り組まれています。
ベルデさかいの大塚寿子さん、杉田麻美さんのお話を伺い、重度の障害があることで自分の考えや思いを言葉にすることが難しい重症心身障害の人にとってのACPについて改めて考えることができました。ACPをすすめるにあたって一番重要な本人の意思の確認が難しいため、「こうしたい」ではなく「こうしたいと思っているんじゃないか」という推定意思が基本になります。「こうしたいと思っているんじゃないか」と考える根拠になるものは、本人の表情や顔色など、言葉以外の部分の読み取りに加え、その人のことをよく知る人たちとの対話の積み重ねから立ち上がってくる「その人らしさ」みたいなものなのかなと思いました。関わる人を増やし、その人を中心に何気ないやり取りを積み重ねることそのものがACPであるとすれば、それは豊かに生きることそのものです。言葉での表出が難しい人たちだからこそつくることができる人の輪や関係性がそこにはあるのだろうなと思いました。